角野隼斗ピアノリサイタル 2020.12.13 streaming配信 レビュー
『ハーメルンの笛吹き男』
2020年12月13日に行われた角野隼斗さんのピアノリサイタル(streaming配信)について、レビューします。
当初の私の予定では、streaming公演が20時開始だったため、家事等を考えるとLIVEで観るのはなかなかに難しく、後日、アーカイブで一人でじっくり観ればいいと考えていました。
ですが当日の開始時間が近付くとそわそわしてしまい、本当にほんの少しだけ、LIVEの様子をほんのちょっと覗いてみるだけのつもりで、20時にスマホの画面を開きました。
そして、、戻って来られなくなりました(笑)
スマホの小さい画面から流れているとは思えない、圧倒的な引力を持った音と映像。
キラキラと光るような高音の音の粒。かと思えばお腹の底に響くような低音。
画面から伝わる角野さんの緊張感と高揚感。
自分はいつものリビングにいるはずなのに、意識がサントリーホールに飛んで行ってしまうような、そんな感覚が確かにありました。
結局、開始からアンコール終了までの約1時間半、子供と夫の存在を完全に忘れて、スマホに釘付けになっておりました。
最初から最後までずっと鳥肌が立つほど凄い演奏だったのですが、特に凄かったのが、ハンガリー狂詩曲 第2番のカデンツァです。
途中で「どこへ行ってしまうのだろう」と怖れを感じるほど、未知の音楽の宇宙が拡がっていました。角野さんはずっと笑顔を浮かべていらっしゃって、それがとても妖しく美しく、自分は未知の世界に恐怖を感じたはずなのに、気が付くとその音楽の宇宙に惹き寄せられて、どこまでもついて行きたいと願っている、そんな不思議な体験でした。
後で考えて、思い出したのが、「ハーメルンの笛吹き男」のお話です。
美しい笛の音に誘われて、男について行ってしまった子供たち。
初めてお話を聞いた時は、「男について行った子供たちは、どこへ行ってしまったんだろう」と子供心にとても怖かったのを覚えています。
でももしかしたら、この時の私と近い気持ちだったかもしれません。
未知の世界へ誘う音楽。
少しの恐怖と、それを遥かに凌駕する高揚感と幸福感。
夢から覚めて、私は日常に帰ってきてしまいましたが、私は私の知らない世界が、確かにそこにあることを知ってしまいました。
そして必ずまた、再びその世界に触れたいと、願って止みません。
角野さん、最高の体験をありがとうございました。
私と同じように、角野さんのピアノで未知の世界へ誘われる人が、世界中に量産されていくことを願っています。